水中から息継ぎのため顔をあげ、一瞬、外の光を見上げるとまた水中に顔を鎮める。苦しくなってきた呼吸を抑えながらブクブクと息を吐き、また顔をあげる。プールサイドまであとすこし。手を伸ばし、やっとの思いで泳ぎ着いた。今日は平日、人もまばらなプールはとても静かだけど、僕は水の中で息継ぎがうまくできずにもがいていた。しだいに息があがり呼吸のペースが早まる。あとすこし。あとすこし。そんな繰り返し。十分に疲れ切ったところで僕はプールから出た。家に帰って窓を開ける。横になりひんやりした空気に吹かれていたら泳いだあとの脱力感が全身をつつみ、まぶたも重くなってきた。夕方になって空一面を覆っていた雲も流れて外が明るくなった。この時間の昼寝がいちばん気持ちがいい。疲れた体を伸ばしてひと眠りしている間に外は薄く暗くなった。普段なら残業でまだ会社にいる時間。かけ離れた時間を過ごし夜を意識したら普段と同じように時間の流れが気になり始める。あしたも休みだったらいいのに。時間とともに僕らは毎日を暮らし、時間への意識が時にあせりやイライラを呼び起こす原因となる。時間に対する意識をどのように持つべきか、これは充実感をもった生活を送るため大きなカギとなるものである。泳いでいる時間、そこに他の意識が入り込む余地はなく、僕はただ水中での泳ぎだけに集中している。そこに時間への意識は無い。今日はいい時間を過ごせたと思う。(終わり)